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おのおの十余箇国（じゅうよかこく）のさかひをこえて、身命（しんみょう）をかへりみずして、たづねきたらしめたまふ御こころざし、ひとへに往生極楽の道を問ひきかんがためなり。しかるに念仏よりほかに往生の道をも存知し、また法文等をもしりたるらんと、こころにくくおぼしめしておはしましてはんべらんは、おほきなるあやまりなり。もししからば、南都北嶺（なんとほくれい）にもゆゆしき学生（がくしょう）たちおほく座（おわ）せられて候ふなれば、かのひとにもあひたてまつりて、往生の要よくよくきかるべきなり。親鸞におきては、ただ念仏して弥陀にたすけられまゐらすべしと、よきひと（法然）の仰せをかぶりて、信ずるほかに別の子細なきなり。念仏は、まことに浄土に生るるたねにてやはんべらん、また地獄におつべき業にてやはんべるらん。総じてもつて存知せざるなり。たとひ法然聖人にすかされまゐらせて、念仏して地獄におちたりとも、さらに後悔すべからず候ふ。そのゆゑは、自余（じよ）の行もはげみて仏に成るべかりける身が、念仏を申して地獄にもおちて候はばこそ、すかされたてまつりてといふ後悔も候はめ。いづれの行もおよびがたき身なれば、とても地獄は一定すみかぞかし。弥陀の本願まことにおはしまさば、釈尊の説教虚言（きょごん）なるべからず。仏説まことにおはしまさば、善導の御釈（おんしゃく）虚言したまふべからず。善導の御釈まことならば、法然の仰せそらごとならんや。法然の仰せまことならば、親鸞が申すむね、またもつてむなしかるべからず候ふか。詮ずるところ、愚身の信心におきてはかくのごとし。このうへは、念仏をとりて信じたてまつらんとも、またすてんとも、面々の御はからひなりと云々（うんぬん）。（『歎異抄』第２条）
『歎異抄』について
本日の報恩講は、宗祖親鸞聖人のご苦労を偲（しの）ばせていただき、そのご恩に報謝させていただく、浄土真宗で一番大切なご法要でございます。私にとって親鸞聖人のご苦労は何のためなのかを、お互いにしっかり見つめさせていただきたいと思っております。
さて、ご讃題の『歎異抄』は、親鸞聖人の滅後、聖人と異なる教えを説くお弟子が現れ、これではせっかくの聖人の神髄が歪（ゆが）んでしまうという嘆きのもとに、弟子の唯円さんが、ご自分の耳に残っている親鸞聖人の生きたお言葉を最初の十条に挙げられ、それを元に間違った考え（異義）をただそうとされたお書物でございます。その第二条をもとに今日はお味わいいたします。
第二条は、関東からはるばる親鸞聖人のもとに信心に不安がでてきたお弟子方が、求道にお出でになった。親鸞聖人は60歳頃に関東から帰京されていますが、その不審にお応（こた）えになっておられるわけです。普通は問答形式になるのでしょうが、そこは巧みな名文で、聖人のお応（こた）えのみが明確に綴（つづ）られ、命がけの真剣勝負の緊迫した雰囲気がにじみでている素晴らしい一節です。
門弟の不審の背景
では、何故、門弟たちに不審が起こってきたのか。この背景には、二つの原因が考えられています。
まず、84歳の時の善鸞事件です。親鸞聖人がご帰京後、関東ではさまざまな問題が起こってきた。そこで長男の善鸞様を自分の代わりに、その解決の為にお遣わしになった。ところが、善鸞様では、門弟の統率ができなかった。そこで苦肉の策か、追いつめられた善鸞さんが、「実は私は、お父さんから夜こっそり念仏の奥義を授かった。これを知らないで念仏をしても、十八願は萎（しぼ）める花でお浄土には参れん」と、聖人と違った教えを関東で言いふらされた。結局、聖人は、善鸞さんと親子の縁を切るという、悲劇が起こります。
しかもその頃、日蓮上人が現れて、四箇格言を主張される。その中に、念仏は極楽浄土に生まれる種ではなく、無間地獄に落ちる業だと叫ばれる。そういうのがおそらく結びついて、「念仏ひとつで」と今まで聞かせてもらっていたが、ヒョッとすると善鸞さんの言うことが本当かもしれん。その奥義を授からねば、念仏しても無間地獄に落ちていくのかもしれん、と疑念のわいて来たお弟子さんがあり、また善鸞さんの元に走った人も出て来た。「これは一大事」と誘い合って、常陸（ひたち）の国から京都まで十二カ国の境を越えて、野宿もし、追はぎやオオカミ、野良犬に襲われながら、あるいは雨嵐に遭う。文字通り命がけで親鸞聖人のもとにおいでになった。そして聖人に、「もし善鸞様の言うことが本当なら、私共にも念仏の奥義を授けて下さい」と、命がけで迫っていかれたのです。
他力信心をあまねく開く
そこで親鸞聖人は何を仰（おっ）しゃったのか。「愚身の信心におきてはかくのごとし」と最後に仰しゃるように、親鸞聖人が門弟の問いに答えるかたちで、愚かな身にいただいた他力の信心をあまねく開いておられます。その内容を端的に述べるなら、機と法の二つでお示しになっている。まず、機−私自身の物柄は、「いずれの行もおよびがたき身なれば、とても地獄は一定すみかぞかし」と、おさえておられる。そして、この私を救って下さる法は、弥陀の本願であり、念仏であり、その「まこと」を、最後にお示しになられます。その当たりを詳しく見てまいりましょう。
他力念仏より他になし
先ず、親鸞聖人は、門弟たちが、はるばる何を求めに来たかを静かにお聞きになって、「あなた方が十余カ国の境を越えて命がけで来られたのは、ただただ往生極楽の道を聞く為ですね」と、その気持ちをしっかり受けとめられていますね。
その上で、「念仏より他の奥義や特別な法文があると疑っておられるが、それは間違いです。自力聖道門では秘密裏に師匠から奥義を授かるのは、内々の通念なんでしょうが、いずれの行もおよびがたき身で、自力と縁の切れた私のところに、それを言ってきてもお門違い。それなら聖道門の比叡山延暦寺や奈良の興福寺の優れた先生のところへ行きなさい」と、一刀両断に切っておられる。そして、「仏になる行は何一つできず、悪しか造れないこの身においては、ただ念仏して阿弥陀様に救われていきなさいという、法然様の言われるままを、そのままいただくしかない身であります。それ以外に何もありませんよ」と、まず善鸞さんの問題に対しての回答をされます。
地獄一定の身
次に日蓮上人の「念仏は無間地獄の業」という問題。それに対して、「念仏はまことに浄土に生まれるタネか、又地獄に落ちるタネかは、私にそんなことはぜんぜんわからない」とおっしゃる。何故なら、「いずれの行もおよびがたき身で、煩悩はいっぱいあるが、仏に成る智慧のかけらもない身においては、それがお浄土に生まれるタネか、地獄に落ちる業かは知る由がないんだ」と、自分の機の無智無能の姿を前面に押し出していかれる。
そして、たとえ法然上人にだまされて念仏して地獄に落ちたとしても、私は後悔はしない。何故なら、「念仏して弥陀にたすけられまいらすべし」という仰（おお）せをいただく以外にはない。もし、仏に成る修行が出来る自分だったら、念仏して地獄に落ちたら、「しまった！ 自力の行をすべきだった」と、後悔も出るでしょう。けれども、成仏できる行も善も何一つ積めない、もともと地獄行きの身なのだから、念仏して地獄に落ちても後悔するはずがない。「いずれの行もおよびがたき身なれば、地獄は一定住みかぞかし」と、如来様に照らし出された自分をバシッと出しておられます。まず、機−私の本当の姿を目の前で示していかれたわけです。
弥陀の本願まこと
そして、次に法の立場から、弥陀の本願がどうしてまことなのか。そして、それをまことと深く信じさせられているかどうかが示されています。
まず、弥陀の本願がまことなので、お釈迦様のお説教、お念仏を説かれたのは嘘（うそ）ではない。お釈迦様の教説がまことであれば、それをいただかれた善導大師も、そしてその善導大師をいただかれた法然上人も、さらにはその法然上人の教えをそのままいただいた、この親鸞が言う事に間違いはない。と押さえていかれる訳ですね。私たちの普通の常識ならば、人が言うなら嘘もあるかもしれん。嘘つきばっかりですからね。でも、悟りを開かれたお釈迦様、仏様がおっしゃることに嘘はない。だから阿弥陀様の本願に嘘はないと説得するのではないでしょうか。
第十七願の誓願
ところが、ここでは、先に「弥陀の本願がまこと」と出してこられた。それはお釈迦様が、第十七願の誓願によってこの世に生まれられた。「もしこの念仏を諸仏方が褒（ほ）め称（たた）えて、その名にこめられた救いの心を、一切の生きとし生ける者に説き広められなければ、私は仏にならない」と誓われた法蔵菩薩様が、ついに南無阿弥陀仏の仏になられたわけでしょう。その誓い通りに、この世にはお釈迦様が、私のために南無阿弥陀仏を讃え、伝えるためにご出世になったわけですね。逆にいうと、お釈迦様が南無阿弥陀仏を説かれたというのは、阿弥陀様の本願がまことであるという証拠の意味合いを含んでいるのだといただかれるわけです。だから南無阿弥陀仏をお釈迦様は説かずにはおれなかった。これを説くためにお釈迦様はお生まれになった。南無阿弥陀仏が仏法そのもので、それ以外は仏法ではないという、法に対する深いいただきぶりが示されているのです。八万四千の法門があっても、それは南無阿弥陀仏をいただく為の準備教育といいますか、いただけるようにとお育てのためにお釈迦様が説かれたのであって、念仏のほかに仏法はない。それだけのものが弥陀の本願であり、念仏であるということを、法の立場からお示しなさったのです。
愚身の信心
そして、これが愚かな身にいただいている他力の信心でありますと、バアーッと全部開いて見せられたわけですね。それでさすがに不審の心から、命がけで来られた門弟も、機の底の底からお示しなさった親鸞聖人を通して、わが身の姿というものを知らされる。それをそのまま引き受けるという南無阿弥陀仏のまことを、聖人を通していただかれたわけですね。ああ、なんとお粗末なことに、聖人に疑心を抱いていたとは、と懺悔の涙とともに、本願に対する自力疑心も木っ端みじんとなって晴れていく。そして、こんなものがい
ただける、こんな私の為のご苦労だったと、今度は喜びの涙とお念仏に代わっていた。それぞれが愚かな身に、他力の信心をいただかれた場面ではないでしょうか。この姿が、華光会では現代の姿かたちで展開されております。そのお心を身近な話題でお味わいいたします。
自分の都合ばかり
私は、とにかく怠け者なので、年賀状書きが邪魔くさくて逃げている。それで、正月に頂いたものに、返事を書いている。一筆書いてあると何か書きたくなるんで、時間もかかりますが、でも、うれしいこともあります。
大学の学生相談室でかかわった学生さんが、社会人として立派にやっておられる近況が添えてある。例えば、「新しい職場にも慣れ、楽しくやっています」と書いてある。この方はヒステリー症状が出て、お母さんに暴力や罵詈雑言（ばりぞうごん）をあびせたりする方でした。他のカウンセラーの担当でしたが、卒業後も電話がかかってくる。たまたま私が代理で受けたことで、私にも電話がかかるが、その人が欲しい答えがでなかった時には、「それでもカウンセラーか！」と電話口で怒鳴ったりしました。そんな調子だから、他の精神科医や相談所でも、すぐケンカになって、援助してもらうところがなくて、妄想的なことも起こっていました。その方のお母さんとつながりができて、お電話でお母さんの辛い思いを聞かせてもらっておった。１年ほどで、その方が保健所に行かれるようになったので、これで一応役目は終わったのかと思っていました。年賀状をいただいて、「えーっ」とびっくりしましたが、やっぱりうれしい。「よかったな」という思いが出てきます。
もう一人も女性。４月に結婚式を挙げる予定ですが、入籍は済ませて、既に一緒に住んでおられる。「早いものでこちらに来てからもう少しで一年です。慣れるのが不安でしたが、こちらの土地柄が皆おっとりされていて、私にとても合うようです」。この方は、あることで自己嫌悪に陥って、すごいウツで、大学に通えず、お母さんと一緒に相談にこられた。一年ぐらい悩みを聞いているうちに自分の力で回復されたのですが、就職して１、２年で上司との関係が非常にこじれて、また同じ自己嫌悪の状態でウツになられた。精神科に行かれたが、今度はソウ状態で、逆に職場で軋轢（あつれき）が起こるというようなことでした。卒業後も、私のところに相談にみえて、何回かお聞きした方なんですが、幸い彼女を支える恋人がいましたので、恋人の方に身を寄せることになって、一年がたった。こんな近況報告をもらうと、「よかった」とうれしくなるんですね。
このこと一つとっても、私は何を求めているのか。自分に都合よく、うまく行くことを求めているんですね。学生さんがうまくいったと喜んでいるが、実は、私の仕事がうまくいったというのが、元にあるわけです。それでニコッとしているわけですが、その姿は、「今生極楽の道を求めんがために生きている」と思うんです。
愛犬の姿を通して
我が家では、生後三ヶ月すぎの雑種の犬を飼っている。時には私が散歩に連れていきますが、先ず、自分が今いるところから、鼻をクンクンやって、臭（にお）いをかいでいる。そこから出発していくんですが、行ったり来たりしながら、臭いをかいでいる。そして、ちょっと気にいった臭いがあると、長い時間をかけてクンクン鼻を近づけて、体をひっくり返して、ワアーとその臭いをすりつけますね。何かしているのでしょうね。それから、口の中に入れられる物は、口でクチャクチャしますね。ビニールでもなんでも口にいれます。愛犬ですから、大丈夫かなと心配になります。次の日も、やはり同じコースで、同じところでまた臭いをかいでいくんですね。とにかく気に入った、あるいは気になる臭いを一生懸命探しているんですよね。ちょうど、手が使えるようになった赤ん坊が、なんでも口に入れるような、あんな時期なのかと思ったり、また縄張りを作っているとも聞きました。で、その姿を見ていると、私らも同じやなあと思います。今生極楽の道を求めてクンクンやっている。仕事の上でも、家庭や人間関係でも、または我が身の健康でも、一生懸命「これはいけるぞ」と、色々、においを嗅（か）いでいるのではないでしょうか？
気に入った臭いがあったら必死に突っ込んでいったり、手に入れようとする私の姿は、犬そのものじゃないですか。
ＪＯＣの臨界事故
秋に東海村で、核燃料工場ＪＯＣの臨界事故がありました。放射能の被爆で死亡者がでた。広島より多くの放射能が漏れたらしいとも聞いていますが、あれもムチャクチャしてましたよね。手間を省く為にステンレスのバケツに濃縮ウランを入れて、７段階も省いていたわけです。会社ぐるみで法律違反の裏マニュアルを作って、あれは儲けようという臭いですね。どうしたら儲かるか。ウランの恐さを作業員には教えていない。教えたら誰もやりませんからね。あるいは放射線を感知するフィルムバッジの着用が義務付けられてい
るのに、着けていなかった。普通と比べるとかなりの給料を貰（もら）っていて、社員も薄々分かっていても、クンクンお金が儲かるとなると、放射能なんて見えないし、何の痛みもありませんから、ついついそういう事になってしまう。放射線漏れのサイレンが鳴って、作業員は外に出たのですが、消防署には隠していた。だから、消防士が被爆されましたね。その日、隣町に行かれた知人がいるんですが、昼２時のテレビで知ったが、その頃には安全宣言が出たんだそうです。ところがインターネットで見ていたら、夕方５時から夜２時くらい、水を抜いたあたりでグーッと放射能の値が高くなったそうです。政府も、自分達の原子力行政に都合が悪くならんように、ウソをついているわけです。
今生極楽の道に執着
この事故は、お互いに今生極楽の道を歩んでいるが、行き着くところはこうなるのだと教えてくれています。でも、そんな事を私はしませんと言ってみても、心の中はもっとえげつない事をしているのと違いますか。そんな業を造っているのと違いますか。増井先生が「食べ物という生き物はない」といわれますが、他の生き物を平気で殺して食べています。テレビを見ていたら、世界中で難民が三千万おられるという。国を追い出され、家も、食べ物もない、不衛生の中で病気や飢え死にされていく。かわいそうにと、スズメの涙ぐらいの何かをだしても、後は見向きもしませんわね。そんなことよりも私の大事なものと、臭いかきを一生懸命やっているんです。まさに、今生極楽の道を猛進しているのが私。それが、お前の地獄一定の姿だと、我が身の姿をお知らせ下さる。そしてその行く末、後生を案じて下さるお方が、南無阿弥陀仏様おひとりなわけです。
往生の道へ引かれる
華光同人の皆さんからは、年賀状でご説法も頂きます。
ある方は、「先生方の法話テープを聞かせて頂けるとは勿体ないですね。日本に生まれ、人間に生まれ、何と幸せな事でしょう」。私、今生極楽を一生懸命クンクンやってるのに、それは違うぞ。日本にあんた生まれたのは、ここと違うで、こっちやろ。犬が、何時までも気に入った臭いをかぎたいが、私がそれにつき合っていたら日が暮れるので、ギューと引っ張る。でも、さすがに犬の方も、小さいながら引っ張り合うのです。その力に負けると、又クンクンやりだす。それと同じで、仏様の方が鎖（くさり）をつけ、引っ張って下さるんですな。今生極楽を猛進していくしかない奴やからね。
年配の方から、「法を聞けよの命をいただきました。仏法は聴聞にきわまるなり、このお言葉有り難いですね。聞法に精進して、今年も頑張ります。人間生涯、法を聞く、法を聞くんだ」と。「ハハアー」と平伏せざるをえませんね。その時だけは、グーッと引っ張られるが、又クンクンやりだします。
「80歳の年を重ねて、おのが身の罪と愚かさを知らされる」。80年を重ねて何があるのか？ これしかないんだと、グーっと引っ張られますね。また、「年命の日夜に去るをおぼえず。京都でお会いしてから10年。私もいよいよボロボロ。体の修繕も繕い難く、それでも無常と思わず、そんな私がほれぼれと喜ぶ本願ありがたや、南無阿弥陀仏」。こんな奴を引き受けて下さるご本願。正月から、今生極楽へ邁進（まいしん）する奴を、グッーとすごい力が加わって、こうしてここに座らせてもらっているのでしょう。
どこまでも地獄真向き。それをそのまま引き受けると、願いをかけられたご本願。おのれが造っていく地獄を、こちらに切り変えてやろう。そのまま、そのままとおっしゃる。長々ご苦労かけました、南無阿弥陀仏。ようこそ、ようこそと気づかせていただくには、どれだけの苦労がかかているかわからん。そうでしょう。この姿を見たらね。聞く奴でも、求める奴でもない。どれだけの力が、今までかかってきたことか。ところが、自分の力で聞いているように自惚（うぬぼ）れていますが、そうじゃないんだと、バシッと知らされます。
ショックな事故を通して
実は、昨日、大変ショックな事がありました。まだ引きずっています。と言うのは、仕事のご指導をいただいた先生が、身を引かれることになって、一昨日、送別会を開いたんです。増井先生ぐらいのお年ですが、たいへんな酒豪。その時も、夜９時半でお開きになったが、「まだ早い、酒もある」と。10時にタクシーが迎えにきて、ヤレヤレと別れました。そのまま、家に無事に帰られたと思っていたんですが、そうじゃなかったんです。
翌日、「先生が帰らないが、どこへ行ったんですか？」と連絡が入ったんです。とても嫌な気持ちになってきました。やはり、家の近くで事故に遭われていたんです。
別れ際まで、「また、一緒に飲もうや」とすごく喜んで下さっていたんですよ。ショックでしたね。昨晩は、寝ていても、頭がかってに働いて、どうしてこんなことになったのかと、先生が亡くなったことが、色々と頭の中をめぐって出てきました。でも、ショックは受けても、自分は死んでいくとは思いませんな。やっぱり人ごとで、自分はまだまだ生きていく。本当にしぶとい奴や。ナンマンダブツ。
そして、そういう時でも、まず自分の都合を先に考えている。遺言で「身内だけの密葬」となったので、いやらしいけれども、「これで華光の報恩講に行けるわ」と、そんな心しかないんですね。
本当に、小慈小悲もなき身にて、本当に慈悲のかけらもない。地獄一定や。そいう私だからこそ「ただ念仏して弥陀に助けられまいらすべし」と、そういただくしかないんと違いますか。犬のように今生極楽の道を邁進（まいしん）する、地獄必堕のこの私を、往生極楽の道に切り替えて下さる、阿弥陀様のご本願。それを親鸞聖人は、直々にご苦労下さって、私どもにお伝え下さったんじゃないかなと思わされたわけです。
（平成12年１月16日 華光会報恩講法話テープ「今生極楽の道」）
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